大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所 平成6年(行ウ)7号 判決 2000年8月30日

原告

原告

原告

原告

右四名訴訟代理人弁護士

首藤逸雄

被告

足利税務署長 勝山學

右指定代理人

齋藤紀子

赤池昭光

藤原一晃

落合三郎

田村一美

津久井文夫

吉村正志

渡邊雅行

主文

一  原告丙の昭和六二年一〇月二九日相続開始に係る相続税について被告が平成二年一〇月三一日付けでした更正処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める本件訴えのうち、申告納税額一五三万六八〇〇円を超えない部分の取消しを求める部分を却下する。

二  原告甲の昭和六二年一〇月二九日相続開始に係る相続税について被告が平成六年一一月七日付けでした重加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額四二六万三〇〇〇円を超える部分を取り消す。

三  原告丙及び原告甲のその余の各請求並びに原告乙及び原告丁の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が、原告甲に対し、平成六年一一月七日付けでした、同原告の昭和六二年一〇月二九日相続開始に係る相続税についての再更正処分のうち、課税価格一億七二八一万円、納付すべき税額一六五一万七六〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

二  被告が、原告乙に対し、平成二年一〇月三一日付けでした、同原告の昭和六二年一〇月二九日相続開始に係る相続税についての更正処分のうち、課税価格一七四二万円、納付すべき税額三五七万七六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

三  被告が、原告丙に対し、平成二年一〇月三一日付けでした、同原告の昭和六二年一〇月二九日相続開始に係る相続税についての更正処分のうち、課税価格六五四万円、納付すべき税額九一万三四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

四  被告が、原告丁に対し、平成二年一〇月三一日付けでした、同原告の昭和六二年一〇月二九日相続開始に係る相続税についての更正処分のうち、課税価格一七五六万四〇〇〇円、納付すべき税額三五七万七六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らが、被告がした更正処分ないし再更正処分は相続財産でないものや贈与財産でないものを含めていたり、あるいは相続債務を含めずに相続税を算出した違法があり、また、過少申告加算税ないし重加算税の各賦課決定処分についても、課税要件を充足していないのに課した違法があるなどとして、右各処分(ただし、原告乙、原告丙及び原告丁に対する各処分については、裁決により一部取り消された後のもの)の一部ないし全部の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告らの被相続人である戊(以下「被相続人」という。)は、昭和六二年一〇月二九日に死亡し、同人の地位及び権利義務を妻の原告甲、長女の原告乙、長男の原告丙及び二女の原告丁が相続により承継した。

2(一)  原告らは、相続税の申告期限内である昭和六三年四月三〇日、別表一の1ないし4の各「期限内申告」欄記載のとおり、相続税の申告をした。

(二)  被告は、平成二年一〇月三一日付けで、別表一の1ないし4の各「更正・決定」欄記載のとおり、原告らに対して更正処分を、原告甲に対して重加算税賦課決定処分を、原告乙、原告丙及び原告丁に対して過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれした。

(三)  原告らは、右各処分を不服として、同年一二月二一日、被告に対し、異議申立てをしたが、被告は、平成三年三月一九日付けで、いずれも棄却する旨の決定をした。

(四)  原告らは、右決定を不服として、同年四月一七日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、平成六年六月二三日付けで、別表一の1ないし4の各「審査裁決」欄記載のとおり、原告甲に係る審査請求をいずれも棄却し、原告乙、原告丙及び原告丁に係る審査請求については、いずれもその一部を取り消す旨の裁決をした。

(五)  被告は、原告甲に対し、平成六年一一月七日付けで、別表一の1の「再更正決定」欄記載のとおり、再更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。

二  課税根拠及び処分の適法性に関する被告の主張

(以下において、原告甲に対する再更正処分を「本件再更正処分」と、原告乙、原告丙及び原告丁に対する各更正処分(ただし、いずれも裁決によって一部取り消された後のもの)を「本件各更正処分」と、原告乙、原告丙及び原告丁に対する各過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも裁決によって一部取り消された後のもの)及び原告甲に対する平成六年一一月七日付け過少申告加算税賦課決定処分を合わせて「本件各過少申告加算税賦課決定処分」と、原告甲に対する平成六年一一月七日付け重加算税賦課決定処分を「本件重加算税賦課決定処分」という。)

1  原告らの相続税の課税価格及び納付すべき税額の算定過程は次のとおりである。

(一) 相続で取得した財産の価額 二億九九三六万三八七六円

原告らが、本件相続で取得した財産の内訳は、別表二の順号1記載のとおりであり、原告各自の価額は次のとおりである。

<1> 原告甲 二億五六六一万一六四三円

<2> 原告乙 一〇八八万〇二一九円

<3> 原告丙 二〇八四万八三四八円

<4> 原告丁 一一〇二万三六六六円

(二) 債務及び葬式費用の金額 四二一一万六五五八円

本件相続に係る債務及び葬式費用の内訳は、別表二の順号2記載のとおりであり、これは、遺産分割協議により、原告丙が承継又は負担すべきものである。

(三) 純資産価額 二億七八五一万五五二八円

原告らの純資産価額は、右の(一)から(二)を控除した価額であり、次の<1>ないし<4>の合計二億七八五一万五五二八円となる(別表二の順号3)。なお、原告丙については、債務及び葬式費用の金額が相続により取得した財産の価額を上回るため、相続税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの、以下同じ。)一三条一項により、純資産価額は〇円となる。

<1> 原告甲 二億五六六一万一六四三円

<2> 原告乙 一〇八八万〇二一九円

<3> 原告丙 〇円

<4> 原告丁 一一〇二万三六六六円

(四) 贈与財産価額 一億二六七七万六〇八二円

相続税法一九条(相続開始前三年以内に贈与があった場合の相続税額)により、課税価格に加算される贈与財産の内訳は、別表二の順号4記載のとおりであり、原告各自の価額は次のとおりである。

<1> 原告甲 一億〇七一五万四一六二円

<2> 原告乙 六五四万〇六四〇円

<3> 原告丙 六五四万〇六四〇円

<4> 原告丁 六五四万〇六四〇円

(五) 課税価格 四億〇五二八万九〇〇〇円

原告らの課税価格(いずれも国税通則法一一八条一項による一〇〇〇円未満の端数切り捨て後の額)は、右の(三)に(四)を加算したものであり、次の<1>ないし<4>の合計四億〇五二八万九〇〇〇円となる(別表二の順号5)。

<1> 原告甲 三億六三七六万五〇〇〇円

<2> 原告乙 一七四二万〇〇〇〇円

<3> 原告丙 六五四万〇〇〇〇円

<4> 原告丁 一七五六万四〇〇〇円

(六) 原告らの算出税額 一億四三一二万六二〇〇円

原告らの算出税額は、次の<1>ないし<4>のとおりであり、その計算詳細は別表三記載のとおりである。なお、原告らの算出税額の計算における法定相続人五名とは、原告ら四名に、昭和六二年五月一三日に原告丁との結婚に際し被相続人及び原告甲と養子縁組した己(昭和六三年五月二七日に調停離婚及び調停離縁した。)を加えた人数である。

<1> 原告甲 一億二八八一万三五八〇円

<2> 原告乙 五七二万五〇四八円

<3> 原告丙 二八六万二五二四円

<4> 原告丁 五七二万五〇四八円

(七) 税額控除 九〇〇五万四八〇〇円

原告らの算出税額から控除される税額控除は、相続税法一九条による贈与税額控除額が一八四九万一七〇〇円、同法一九条の二による配偶者の税額軽減額が七一五六万三一〇〇円(計算根拠は別表四記載のとおり)であり、原告各自の控除額は次のとおりである(別表二の順号7)。

<1> 原告甲 八七九九万九八〇〇円

<2> 原告乙 六八万五〇〇〇円

<3> 原告丙 六八万五〇〇〇円

<4> 原告丁 六八万五〇〇〇円

(八) 納付すべき税額 五三〇七万一二〇〇円

原告らの納付すべき税額は、右の(六)から(七)を控除した額(ただし、いずれも国税通則法一一九条一項による一〇〇円未満の端数切り捨て後の額)であり、原告各自の価額は次のとおりである(別表二の順号8)。

<1> 原告甲 四〇八一万三七〇〇円

<2> 原告乙 五〇四万〇〇〇〇円

<3> 原告丙 二一七万七五〇〇円

<4> 原告丁 五〇四万〇〇〇〇円

2  以上のとおり、本件相続に係る相続税について、原告らの納付すべき税額は、右(八)のとおりであるところ、右金額は、本件再更正処分及び本件各更正処分の納付すべき税額をいずれも上回るから、本件再更正処分及び本件各更正処分はいずれも適法である。

三  争点

原告らは、前記二の課税根拠に関する被告の主張のうち、相続により取得した財産については、別表二の順号1<14>及び<15>は相続財産に含まれない旨主張し(後記1、2)、債務及び葬式費用については、別表二の順号2に記載されているもの以外にも存在する旨主張し(後記5、6)、贈与財産については、別表二の順号4<3>及び<4>はこれに含まれない旨主張する(後記3、4)が、その余の点については争わない。

したがって、本件の争点は、加算税に関する争点(後記7、8)を含め、次の1ないし8のとおりである。

1  A市場協同組合の出資二一〇口は、原告甲が本件相続により取得した財産か(別表二の順号1<14>に関して)。

(被告の主張)

(一) 本件相続開始前のAの昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度(以下「六二年三月期」といい、他の事業年度についても同様に略称する。)の法人税の確定申告書では、被相続人がAの出資金二一万円を所有するとされ、本件相続開始後のAの昭和六三年三月期の法人税の確定申告書では、被相続人所有の出資金二一万円は、己名義に変更されているが、己がAの出資金を取得した事実はない。

(二) 原告らは、被相続人は昭和三六年に他の組合員らと共にAを脱会し、出資金全額の払戻しを受けた旨主張する。

しかしながら、Aの登記簿謄本によれば、Aの出資金の総口数は、昭和三二年一月一八日の設立後の同年二月一〇日の出資の総口数及び払込済出資の総額の変更があってから、本件相続の開始時及び開始後も八一〇口(出資金額八一万円)であり、減資が行われたとの事実は記載されておらず、昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期の各法人税の確定申告書を見ても、減資した事実は記載されておらず、出資金の払戻しがAの帳簿上どのように処理されてきたかも不明である上、Aの平成六年三月期及び本訴提起後に提出された平成一〇年三月期の法人税の確定申告書にも、出資金額は八一万円と記載され、平成六年三月期の同族会社の判定に関する明細書には、原告甲が五三〇口、原告乙が一五〇口、原告丙が一三〇口の出資口数を有する旨記載されており、原告らが誤って記載したものと主張する昭和六一年三月期の出資金額が異動しており、原告甲及び原告丙が右各確定申告書を作成していることから、右原告らがAの減資が行われていないことを自認しているものといえる。

また、原告らが減資を行った論拠とするAの臨時総会議録及びAの脱退者名簿の各記載は、それのみをもって減資が行われた事実を認め得るものではないし、右各文書は成立において信憑性に欠けるものである。

さらに、被相続人は、昭和四〇年一月二一日から昭和四一年三月三〇日までの間、Aの役員として代表理事の役職にあったことが明らかであるところ、中小企業等協同組合法三五条一項が、理事の定数は三名以上とする旨規定し、同条四項では、理事の定数の少なくとも三分の二は組合員又は組合員たる法人の役員でなければならないとしていることなどから、少なくとも右の間において被相続人がAの出資金を有する組合員たる資格を有していたことが認められるところ、その後、被相続人に出資金の払戻しがなされた事実は認められないので、被相続人は、本件相続開始時においてAの出資金を有していたというべきである。

(三) 右(一)、(二)によれば、昭和三六年当時、Aの出資金の払戻し及び減資が行われた事実は認められず、また、右事実の有無にかかわらず、被相続人が、昭和四〇年一月二一日に再度代表理事に就任していることに照らし、右時点で一定の出資口数を所有し、その所有口数は二一〇口であったことが認められるから、本件相続開始時に、被相続人はAの出資二一〇口を所有しており、遺産分割協議書五項に基づいて、原告甲がAの出資二一〇口を取得したものである。

(原告らの主張)

(一) 被相続人は、Aの出資二〇〇口を所有していたが、昭和三六年に株式会社Bを設立するに当たり、Aを他の組合員と共に脱会し、出資二〇〇口全額の払戻しを受けたので、被相続人が所有していたAの出資金は、右払戻しを受けた時点で消滅し、相続財産として存在しない。

(二) Aは、昭和三六年の減資の事実を登記していないが、これは、以後協同組合の営業を止めてしまったことから、単に手続を懈怠したに過ぎない。Aの帳簿上、出資金の変更をせず、昭和五二年以降、担当計理士の誤った指導により、法人税の確定申告上、適宜、名目だけの四名の出資者を記載していたことから、誤って課税されたものである。Aが昭和三六年に減資した事実は、Aの臨時総会議録及びAの脱退者名簿によって明らかである。

(三) また、Aの登記簿上、被相続人が昭和三五年四月二日に代表理事を退任した旨の登記がなされ、その後昭和四〇年から一年足らずの間代表理事に就任した旨の登記がなされているが、再任登記がなされていても被相続人の出資金が存在しない事実に変わりはない。

2  C農業協同組合との間の養老生命共済契約(以下「本件共済契約」という。)上の権利は原告甲が相続により取得した財産か(別表二の順号1<15>に関して)。

(被告の主張)

C発行の本件共済契約に関する証書によれば、本件共済契約は、<1>共済契約者が被相続人、<2>被共済者が原告甲、<3>満期共済金受取人が原告甲、<4>死亡共済金受取人が被相続人、<5>契約日が昭和五二年三月一日、<6>死亡共済金額が四九九五万円、<7>共済掛金が年七三万二二九七円という内容であり、被相続人が掛金の負担者となっていることは明らかである。なお、本件相続開始時までに被相続人が払い込んだ掛金の合計額は八〇一万〇五〇一円であり、本件相続開始時までに、被共済者原告甲に係る死亡及び後遺障害事故は発生していない。

原告らは、本件共済契約の契約者名義は被相続人となっているものの、真の契約者は原告丙であり、掛金の負担者も原告丙及び原告甲であって、掛金の支払は被相続人名義の当座預金を利用したに過ぎず、本件共済契約上の権利は相続財産ではない旨主張するが、本件共済契約の契約当時、原告丙は若年で掛金を支払う経済状態にはなかったものであり、被相続人名義の株式会社D銀行足利支店の当座預金から掛金が支払われていたことからすれば、掛金の支払は、被相続人が自己の管理する自己名義の預金口座から行っていたものであり、原告甲及び原告丙が支払っていたものではないことが明らかである。また、原告甲又は原告丙が掛金の支払をしながら、あえて、契約者名義を被相続人としなければならなかった合理的理由は見い出せない。

したがって、本件共済契約の掛金の支払は、被相続人が自己の管理する被相続人名義の預金口座から行っていたものであり、原告甲及び原告丙が支払っていたものではないから、本件共済契約上の権利は、遺産分割協議書五項に基づいて、原告甲が取得したものである。

(原告らの主張)

本件共済契約の真の契約者は原告丙であり、同原告が被相続人の名義を借用して契約していたに過ぎない。本件共済契約の掛金は、被相続人名義のD銀行の当座預金口座で決済されていたが、原告丙が右口座に資金を入金して支払っていた。

したがって、本件共済契約上の権利は被相続人の財産ではない。

3  昭和六一年分の証券購入資金は、原告甲が被相続人から贈与により取得した財産か(別表二の順号4<3>に関して)。

(被告の主張)

原告甲は、<1>昭和六一年一〇月三日に六〇〇万円、<2>同月七日に一八五〇万円、<3>同日に五九一万八二二五円の金員(合計三〇四一万八二二五円―以下「昭和六一年分の証券購入資金」ともいう。)を被相続人から取得している。

右金員は、いずれも、被相続人名義の株式会社E銀行足利市場支店の普通預金口座から出金され、<1>の金員は同月四日付けで原告甲名義のF証券株式会社足利支店の口座に、<2>の金員は同月七日付けで原告甲名義のG証券株式会社足利支店の口座に、<3>の金員は同月八日付けで原告甲名義のF証券の口座にそれぞれ入金され、いずれも原告甲の証券購入資金に充てられているところ、原告甲が右金員を返済した事実はないから、被相続人からの贈与と認めるべきである。

(原告らの主張)

(一) 被告は、昭和六一年分の証券購入資金を相続開始前三年内の贈与として認定している。

しかしながら、右金員は、原告甲が昭和六一年九月三〇日、被相続人の名義を借用してDから二五〇〇万円を借り入れるなどした上、証券購入資金としたものであり、原告甲によって次のとおり返済されている。

<1> 昭和六一年一一月二七日にH株式会社から五〇〇万円を借り入れ、同月二八日に同金額をDに返済。

<2> 株式会社Iに対する積立金の返済分七二〇万円から、同年一二月一日に五〇〇万円をD銀行に返済。

<3> 同月一八日にAから一八〇〇万円を借り入れ、同月一九日に一五〇〇万円をDに返済。

<4> 右<2>記載の積立金の返済分から、同月一九日に二三万四九八二円を被相続人名義の普通預金口座(E)に入金して返済。

<5> 右<3>記載の借入金の残金三〇〇万円を、同月二二日に被相続人名義の普通預金口座(E)に入金して返済(Aの小切手により返済)。

<6> 右<2>記載の積立金の返済分から、昭和六二年一月一四日に三〇万円を被相続人名義の普通預金口座(E)に入金して返済。

<7> 同年三月九日に得た株売却代金一九五万三四五六円から、同月二四日に一九〇万円を被相続人名義の普通預金口座(E)に入金して返済。

(二) 被告主張のように昭和六一年分の証券購入資金を被相続人から原告甲に対する贈与と見ると、後記4の昭和六二年分の証券購入資金を含め、被相続人が原告甲に一年間で約一億円の贈与をしたこととなり、しかも、贈与するために借入れをし、その借入金を短期間で返済したことになるが、このようなことは不自然であり、経験則上あり得ない。

4  昭和六二年分の証券購入資金は、原告甲が被相続人から贈与により取得した財産か(別表二の順号4<4>に関して)。

(被告の主張)

原告甲は、<1>昭和六二年二月二六日に四〇〇〇万円、<2>同日に二二〇七万八三〇〇円、<3>同日に九二万一七〇〇円、<4>同年四月一五日に三六〇万円、<5>同年一〇月七日に一五〇〇万円(合計八一六〇万円―以下「昭和六二年分の証券購入資金」ともいう。)を被相続人から取得している。

右金員のうち、<1>及び<5>は、被相続人名義の当座預金口座(D)から出金され、昭和六二年二月二六日付けで四〇〇〇万円及び同年一〇月七日付けで一五〇〇万円が原告甲名義のGの口座に入金されている。また、<2>ないし<4>の金員は、被相続人名義の普通預金口座(E)から出金され、<2>の金員は昭和六二年二月二六日付けで原告甲名義のF証券の口座に、<3>の金員は同日付けで原告甲名義のG証券の口座に、<4>の金員は同年四月一五日付けで原告甲のFの口座に入金されている。

右金員は、いずれも原告甲の証券購入資金に充てられているところ、原告甲は、このうち一〇〇〇万円を返済した(原告甲名義のGの口座から、昭和六二年五月二七日に一〇〇〇万円が出金され、同月二八日に右同額が被相続人名義の普通預金口座(E)に入金されているので、これを返済分と査定した。)のみで、その余の七一六〇万円については返済の事実が認められないから、被相続人からの贈与というべきである。

(原告らの主張)

被告は、昭和六二年分の証券購入資金のうち七一六〇万円を相続開始前三年内の贈与として認定している。

しかしながら、右金員は、H企画が被相続人の名義を借りてDから四〇四〇万円を借り入れるなどした上、原告甲名義の口座を利用して証券を購入したものであり、右借入金もH企画が返済している。

よって、昭和六二年分の証券購入資金(内金七一六〇万円)は、被相続人から原告甲に贈与されたものではない。

5  I及び有限会社Jからの原告甲及び原告丁に対する給与相当分は課税財産から控除すべき債務か。

(被告の主張)

原告らは、I及びJから原告甲及び原告丁に支給された給与相当分(合計五四九三万円)が被相続人の土地等に形を変えて残っている旨主張するが、具体的にどの相続財産に充当されているのかその特定はできない上、右給与相当分は、被相続人の銀行口座に入金された後、同額程度が出金されており、その使途は不明であるが、各人の生活費として費消されたと見るのが自然である。

また、右給与分相当分の返還請求権が原告甲及び原告丁にあるとしても、右返還債務は、遺産分割協議書に基づき、原告丙が承継することになるところ、相続税法一三条一項により、原告丙の純資産価額は既に〇円であるから、原告丙及び他の相続人の相続税額に影響はない。

なお、相続税基本通達一三―三は、被相続人の遺産が相続人等によってまだ分割されていない場合には、相続人等が実際に負担する債務の金額も確定していない場合が多いことから設けられたものであり、本件のように既に遺産分割協議書で相続財産及び債務の分割について合意がなされている場合は該当しない。また、同通達ただし書は、「共同相続人が当該相続分の割合に応じて(被相続人の債務を)負担することとした場合の金額が、相続により取得した財産の価額を超えることとなる場合において、その超える部分の金額を他の共同相続人の相続税の課税価額の計算上控除することとして申告があったときは、これを認める。」と定め、申告の事実を前提としているが、そもそも原告らは、I及びJからの給与分を債務として申告していない。

右のとおり、I及びJからの給与相当分の取扱いについての原告らの主張は、明らかに失当である。

(原告らの主張)

被相続人名義の株式会社K銀行足利支店及びEの各普通預金口座には、I及びJから原告甲及び丁に対する給与合計五四九三万円が振り込まれており、右金員は被相続人の土地その他の財産に形を変えて残っているので、右給与相当分を総体の課税財産から控除すべきである。

なお、法律的に被相続人の債務と構成するのが妥当であるとしても、遺産分割協議書中における債務は、債務超過であることを認識しながら、特に課税財産より控除しなくてもよいとの趣旨を明確にしたものでない限り、当然に課税財産から控除すべきである。相続税基本通達一三―三ただし書は右のような理論を前提としているというべきであり、本件における原告らの主張が、基本通達一三―三ただし書における「申告」に相当するというべきである。

6  株式会社Lに対する敷金返還債務は課税財産から控除すべき債務か。

(被告の主張)

Lに対する敷金返還債務四三四二万三〇〇〇円(以下「本件敷金債務」という。)は、Aの法人税の確定申告書等からAに帰属する債務である。

本件敷金債務が被相続人の債務であるとしても、本件敷金債務は、遺産分割協議書に基づき、原告丙が承継するものであり、相続税法一三条一項により、原告丙の純資産価額は既に〇円であるから、原告丙及び他の相続人の相続税額に影響はない。

(原告らの主張)

本件敷金債務は、被相続人が三〇年後に返還することを約してLから受領したものであるから、被相続人のLに対する返還債務である。

なお、被相続人の債務について原告らの間で遺産分割協議がなされているとしても、前記5と同様、右返還債務は総体としての課税財産より控除すべきである。

7  本件重加算税賦課決定処分について

(被告の主張)

(一) Aの出資の仮装・隠ぺいについて

Aの昭和六二年三月期の法人税の確定申告書別表二の「同族会社の判定に関する明細書」によれば、同年三月期において、出資者四名で出資金額八一万円(出資口数八一〇口)のうち、被相続人が出資金二一万円(出資口数二一〇口)を有している旨の記載があるが、翌昭和六三年三月期のAの法人税の確定申告書別表二の「同族会社の判定に関する明細書」においては、己が出資金二一万円(出資口数二一〇口)を有している旨の記載があるとことろ、己がAの出資金を取得した事実はない。

これは、昭和六三年三月期において、Aの出資金を相続した原告甲の出資金を増加して記載すべきであるにもかかわらず、被相続人の出資金二一万円(出資口数二一〇口)があたかも己に委譲されているかのように仮装したものである。原告甲は、本件相続開始時において、Aの代表者であり、Aの出資二一〇口が相続財産であることを認識しながら相続財産に含めず、相続税申告書を被告に提出し、相続税を過少に申告したものである。

(二) M株式四〇株の仮装・隠ぺいについて

I及びJが、昭和六二年二月七日、被相続人に対して売却したM株式各二〇株(以下「本件M株式」という。)の取引について、平成元年五月九日の調査時に提示されたIの昭和六二年七月期の有価証券勘定(総勘定元帳の一部)及びJの昭和六二年一一月期の有価証券勘定(総勘定元帳の一部)の各減算(貸方)欄には、H企画に対し、それぞれM株式二四二〇万円(二〇株)を売却した旨の記載があるが、いずれも「H企画」の文字は、庚(氏名)の「(名)」の部分が抹消されて「企画」と改ざんされており、これらは原告甲が命じて書き直させたものである。

また、相続人らの異議申立てによる平成三年一月二九日の調査の際提示されたIの昭和六二年七月期の有価証券勘定(総勘定元帳の一部)の減算(貸方)欄は、「H企画」の部分がさらに「J」と改ざんされており、これは原告甲によるものである。すなわち、原告甲は、被相続人が本件M株式を取得、所有しているにもかかわらず、あたかもH企画又はJが所有しているかのように仮装したものである。

さらに、本件M株式の右仮装取得に符号させるため、H企画は、昭和六三年三月三一日、被告に提出した昭和六三年一月期の法人税の確定申告書添付の「有価証券の内訳書」に「六二・一〇・二〇買入、(株)M、五〇株、金額・一億二七五〇万円」と記載し、本件相続開始時直前である昭和六二年一〇月二〇日に、本件M株式四〇株を含むM株式五〇株を取得したかのように仮装計上していた。なお、H企画は、被告の係官が行った昭和六三年一月期に係る法人税調査で、同社が昭和六三年一月期においてM株式を取得した事実はないとの指摘を受け入れ、右有価証券一億二七五〇万円を資産から減算した法人税の修正申告書を平成元年一一月三〇日被告に提出している。

原告甲は、本件相続開始時において、I及びJの取締役であり、Hの代表取締役であったが、右のとおり、本件相続により原告甲が取得した本件M株式を、同原告が取得しなかったかのように仮装して相続財産に含めず、相続税申告書を被告に提出し、相続税を過少に申告したものである。

(三) 以上のとおり、原告甲は、Aの出資金(重加算税の対象となる財産価額二二〇三万六三五〇円)及び本件M株式(重加算税の対象となる財産価額一億〇二三六万円)を隠ぺい、仮装して本件申告の相続財産に含めなかったものであるから、国税通則法六八条の規定に基づいてされた本件重加算税賦課決定処分は適法である(計算明細は別表五ないし七のとおり)。

(原告らの主張)

書類上の記載が真実と一致しないのは、担当経理士、税務職員の誤った指導によるものであり、仮装・隠ぺいの事実はない(なお、原告ら、本件M株式が相続財産であることを争うかのような主張をするが、相続財産ないし相続債務については前記争点1ないし6のみを争う旨明言しているから、本件M株式が相続財産であることは争いがないものというべきである。)。

8  本件各過少申告加算税賦課決定処分について

(被告の主張)

本件再更正処分及び本件各更正処分はいずれも適法であり、原告らの本件相続に係る相続税の課税価格及び相続税額が過少であったこと(ただし、本件重加算税賦課決定処分の対象とされる相続で取得した財産は除く。)について、国税通則法六五条四項の「正当な理由」があったとは認められないことから、同条の規定に基づいてなされた本件各過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法である(計算明細は別表五のとおり)。

(原告らの主張)

本件再更正処分及び本件各更正処分はいずれも違法であり、また、本件は原告らの税務に対する無知と税務職員の誤導によって生じたものであるから、それを原告らの責任に転嫁するのは正義に反する。

したがって、本件各過少申告加算税賦課決定処分は取り消されるべきである。

第三争点に対する判断

一  訴えの適法性について

原告丙は、本訴において、本件相続に係る相続税について被告がした更正処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)のうち、課税価格六五四万円、納付すべき税額九一万三四〇〇円を超える部分の取消しを求めているところ、同原告が、昭和六三年四月三〇日、本件相続に係る相続税について、課税価格一三六一万一〇〇〇円、相続税額一五三万六八〇〇円と申告していることは、当事者間に争いがない。

ところで、相続税については、納税義務者が申告書を提出すれば、それによって納税義務が確定するのが原則であり(国税通則法一六条)、納税義務者において申告が過大であるとしてその誤りを是正するためには、所定の期間内に更正の請求をすることが要求されている(国税通則法二三条あるいは相続税法三二条)ことからすれば、申告書の記載の錯誤無効を主張し得る場合は格別、更正の請求という法の求める手続を採ることなく更正処分のうち申告額を超えない部分の取消しを求めることは許されないというべきである。

よって、原告丙の更正処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める本件訴えのうち、申告納税額一五三万六八〇〇円を超えない部分の取消しを求める部分は、不適法として却下を免れない。

二  争点1について

1  証拠(甲三二、乙一ないし三、原告甲)によれば、Aの昭和六二年三月期の確定申告書の「判定基準となる株主等の株式数等の明細」欄には、原告甲が出資金二〇万円を、原告乙が出資金二〇万円を、辛が出資金二〇万円を、被相続人が出資金二一万円をそれぞれ有する旨の記載があること、被相続人が死亡した後のAの昭和六三年三月期の確定申告書の同欄には、原告甲が出資金二〇万円を、原告丙が出資金二〇万円を、己が出資金二一万円を、原告乙が出資金二〇万円をそれぞれ有する旨の記載があるところ、右己はAの出資者となったことはなく、原告甲が被相続人の代わりとして己の名義を無断借用したに過ぎないことが認められる。

右事実によれば、被相続人は、本件相続開始時において、Aの出資二一〇口(出資金額二一万円)を有していたものと推認することができる。

2  これに対し、原告らは、被相続人が有していたAの出資金は、昭和三六年に現金ですべて払い戻されており、経理士の指導により昭和五二年以降法人税の確定申告の際名目だけ四名の出資者を記載していたに過ぎない旨主張し、原告甲もその本人尋問において右主張に副う供述をする。

しかしながら、証拠(甲一二、一三、乙一、二、一九ないし二一、二九の1ないし4、三八の1、2、四一)によれば、登記簿上、Aの出資の総口数は、昭和三二年一月一八日の設立当初二〇五口(出資一口の金額一〇〇〇円、払込済出資総額二〇万五〇〇〇円)であったものが、同年二月一〇日に八一〇口(払込済出資の総額八一万円)に変更されているものの、以後出資の総口数の変更はなされていないこと、昭和五〇年三月期、昭和五二年三月期、昭和六一年ないし平成二年三月期、平成六年三月期及び平成一〇年三月期のAの各確定申告書には、いずれも期末現在の出資金額八一万円との記載がなされており、昭和五二年三月期を除く各確定申告書の代表者ないし経理責任者欄には、原告甲ないし原告丙の署名押印があり、殊に、本訴提起後に提出された平成一〇年三月期の確定申告書においても出資金額が八一万円とされていることなどにかんがみれば、昭和三六年にAが減資を行い、被相続人に出資金が払い戻されたと認めることはできない。

なお、Aの昭和三六年一月一〇日付け臨時総会議録には、昭和三六年一月二〇日午後一時開催の臨時総会において、Aの業務を中止してBにせり行為及び市場業務を移譲し、出資金は右会社の株券と引き替える旨の議案が可決された旨の記載があり(甲六)、Aの脱退者名簿(昭和三六年二月一六日現在)には被相続人の名前がある(甲七)が、右臨時総会議録の用紙は昭和四〇年四月以降に製造販売が開始されたものであり(乙三二の1)、右脱退者名簿の用紙も昭和四一年二月以降に製造販売が開始されたものであること(乙三二の2)などに照らすと、その信用性は著しく劣るものといわざるを得ない。

3  以上によれば、被相続人は、本件相続開始時において、Aの出資二一〇口を有していたものと認められ、遺産分割協議書五項に基づき、原告甲がAの出資二一〇口(相続税評価額二二〇三万六三五〇円、出資一口当たりの評価額が一〇万四九三五円であることは、当事者間に争いがない。)を取得したものというべきである。

三  争点2について

1  証拠(甲一五の1、三二、乙五、原告甲)によれば、C発行の本件共済契約に係る養老生命共済証書(乙五)には、共済契約者が被相続人である旨の記載があること、本件共済契約の掛金は、被相続人名義の当座預金口座(D)から支払われていた(被相続人名義の小切手が振り出され、右口座で決済されていた。)ことが認められる。

右事実によれば、本件共済契約の契約者は被相続人で、掛金を負担していたのも被相続人というべきであるから、本件共済契約上の権利は、本件相続開始時において被相続人に帰属していたものというべきである。

2  これに対し、原告らは、本件共済契約の実質的契約者は原告丙であり、掛金も原告丙が支払っており、被相続人名義の当座預金口座(D)に振り込まれた二四四万七五〇七円(昭和五九年五月一九日付け)、一七〇万円(同年九月一〇日付け)及び八〇万円(同月一二日付け)は、原告丙が本件共済契約の掛金の支払のために振り込んだ旨主張する。

証拠(甲一五の2及び3)によれば、右金員が被相続人名義の当座預金口座(D)に入金されていることが認められるものの、原告甲は、その本人尋問において、右金員につき、「二四四万七五〇七円は原告丙が事故を起こした際の示談金が振り込まれたものである。掛金に充てられたかどうかはっきりしない。その余の金員はどのような趣旨で振り込まれたものか分からない。」と供述し、陳述書(甲三二)において原告丙が四四六万九五五五円を被相続人の口座に入金したとしている点についても、掛金の支払として入金したかどうか不明である旨の供述をしていることからすると、右金員が本件共済契約の掛金の支払のために振り込まれたものと認めることはできない。また、本件共済契約締結当時の原告丙の年齢(二一歳)にかんがみれば、原告丙が毎年七三万円余りの掛金を支払っていたとは考え難く、被相続人名義の本件共済契約の掛金を原告丙が支払う合理的理由もないことからすれば、結局、原告丙が本件共済契約の当事者として本件共済契約の掛金を支払っていたと認めることはできない。

3  右によれば、被相続人は、本件相続開始時において、本件共済契約上の権利を有していたものと認められ、遺産分割協議書五項に基づき、原告甲が本件共済契約上の権利(相続税評価額四六〇万八三五〇円―払込共済掛金合計額八〇一万〇五〇一円に一〇〇分の七〇の割合を乗じて算出した金額から、死亡共済金額四九九五万円に一〇〇分の二の割合を乗じて算出した金額を控除した金額)を取得したものというべきである。

四  争点3について

1  証拠(甲一六、乙六の1、七、八、原告甲)によれば、昭和六一年一〇月三日付けで被相続人名義の普通預金口座(E)から六〇〇万円が出金され、同月四日付けで同額が原告甲名義のFの口座に入金されていること、同月七日付けで被相続人名義の普通預金口座(E)から一八五〇万円が出金され、同日付けで同額が原告甲名義のGの口座に入金されていること、同日付けで被相続人名義の普通預金口座(E)から五九一万八二二五円が出金され、同月八日付けで同額が原告甲名義のFの口座に入金されていること、右金員はいずれも原告甲個人の証券購入資金に充てられていることが認められる。

2  ところで、原告らは、昭和六一年分の証券購入資金は、原告甲が被相続人名義でDから借り入れるなどしたものであるから、そもそも被相続人のものではない旨主張する。

しかしながら、証拠(甲一七、乙六の1、原告甲)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六一年九月三〇日にDから被相続人に対して二五〇〇万円が融資されているところ、右融資は被相続人が振り出した約束手形をDに差し入れる手形貸付の方法でなされていること、右借受金のうち二〇〇〇万円が同年一〇月二日付けで被相続人名義の普通預金口座(E)に入金されており、昭和六一年分の証券購入資金は、右二〇〇〇万円のほか、同月七日付けで同口座に入金された一〇〇〇万〇四一六円などが引き出されたものであることが認められる。これによれば、Dによる二五〇〇万円の融資は、被相続人の信用に基づき被相続人に対してなされたものというべきであるから、融資された金員は被相続人のものと認められ、また、同月七日付けで入金された一〇〇〇万〇四一六円も、被相続人名義の口座に入金されたものであるから被相続人のものと推認され、結局、原告甲名義の証券口座に入金された昭和六一年分の証券購入資金は、すべて被相続人の所有に帰するものと認められる。

したがって、この点に関する原告らの主張は、理由がない。

3  次に、原告らは、昭和六一年分の証券購入資金は原告甲によってすべて返済されている旨主張するので、この点について検討する。

(一) 証拠(甲一七、一八、四六の5、6、乙六の1、三五ないし三七)によれば、被相続人のDからの前記借受金二五〇〇万円について、昭和六一年一一月二八日に五〇〇万円(H発行の小切手による。)、同年一二月一日に五〇〇万円、同月一九日に一五〇〇万円の返済(A発行の小切手による。)がなされていること、被相続人名義の普通預金口座(E)に同月一九日に二三万四九八二円、同月二二日に三〇〇万円、昭和六二年一月一四日に三〇万円、同年三月二四日に一九〇万円が入金されていることが認められる。

原告らは、右返済及び入金をもって、昭和六一年分の証券購入資金の返済であるとし、昭和六一年一一月二七日の五〇〇万円は原告甲がH企画から借用して返済し、同年一二月一日の五〇〇万円、同月一九日の二三万四九八二円及び昭和六二年一月一四日の三〇万円は原告甲のIに対する積立金の返済分から返済し、昭和六一年一二月一八日の一五〇〇万円及び同月二二日の三〇〇万円は原告甲がAから借用して返済し、昭和六二年三月二四日の一九〇万円は株式の売却代金から返済した旨主張する。

(二) しかしながら、Hの昭和六二年一月期の総勘定元帳の貸付金勘定欄には昭和六一年一一月ころ原告甲に五〇〇万円が貸し付けられた旨の記載はなく(乙三九)、Iに対する積立金についても、原告らは積立金について経理上借入金として処理していた旨主張するものの、Iの昭和六一年七月期の確定申告書(乙四〇の1)を見ても、右積立金に相応する借入金の記載はなく(なお、右確定申告書の「借入金及び支払利子の内訳書」欄には、被相続人から一七三〇万円の借入れがある旨の記載があるが、昭和六一年一一月までに被相続人は二八八〇万円(毎月四〇万円)、原告甲は七二〇万円(毎月一〇万円)の積み立てをしてていたとの原告甲作成のメモ書き(甲四六の4)に照らすと、右記載は被相続人と原告甲の両者の積立金を表示するものと見ることもできない。)、Aから一八〇〇万円を借り入れた点についても、これを裏付ける客観的証拠はない。

また、Eに振り込まれた昭和六一年一二月一九日付けの二三万四九八二円、同月二二日付けの三〇〇万円、昭和六二年一月一四日付けの三〇万円及び同年三月二四日付けの一九〇万円についても、原告甲は、現金で振り込まれているという理由で被相続人に対する返済の趣旨で同原告が振り込んだものと特定した旨供述するが、右口座にはそれ以外にも現金で振り込まれた金員があり(甲一八、二七、乙六の1)、原告甲の右供述を直ちに採用することはできない。

右の事実に加え、原告らの返済原資に関する主張は、被告の反論を受けて縷々変遷しており、原告甲の返済原資に関する供述も曖昧である上、原告らの主張と異なる供述をしていることなどをも合わせ考慮すれば、被相続人のDからの前記借受金二五〇〇万円の返済が原告甲によって行われたとは認め難く、被相続人名義の普通預金口座(E)に入金された前記振込金が、昭和六一年度分の証券購入資金の返済の趣旨で振り込まれたものであるとも認められず、結局、昭和六一年分の証券購入資金が、原告甲によって返済された事実を認めることはできない。

4  以上によれば、Eの被相続人名義の口座から原告甲の口座に振り込まれた昭和六一年分の証券購入資金三〇四一万八二二五円は、被相続人所有のものであり、右金員が被相続人に返済された事実は認められないから、本件相続開始前三年以内に被相続人から原告甲に贈与された財産と認めるのが相当である。

五  争点4について

1  証拠(甲一五の3、乙六ないし九、原告甲)によれば、昭和六二年二月二六日付けで被相続人名義の当座預金口座(D)から四〇〇〇万円が出金され、同日付けで右金員を含む四三一八万二三〇〇円が原告甲名義のGの口座に入金されていること、同日付けで被相続人名義の普通預金口座(E)から二三〇〇万円が出金され、右金員のうち二二〇七万八三〇〇円(同日付けで七八万三〇〇〇円及び二〇〇〇万円、同月二七日付けで二〇〇万円。)が原告甲名義のFの口座に、同月二六日付けで右金員のうち九二万一七〇〇円が原告甲名義のGの口座にそれぞれ入金されていること、同年四月一五日付けで被相続人名義の普通預金口座(E)から三六〇万円が出金され、同月一六日付けで右金員が原告甲名義のFの口座に入金されていること、同年一〇月七日付けで被相続人名義の当座預金口座(D)から一五〇〇万円が出金され、同日付けで右金員が原告甲名義のGの口座に入金されていること、右金員は、いずれも証券購入資金に充てられていること、原告甲名義のGの口座から、同年五月二七日に一〇〇〇万円が出金され、同月二八日に同額が被相続人名義の普通預金口座(E)に入金されていることが認められる。

2  ところで、原告らは、昭和六二年分の証券購入資金は、H企画が被相続人名義でD等から借り入れるなどしたものであるから、そもそも被相続人のものではない旨主張する。

しかしながら、証拠(甲一五の3、乙六の1、九)によれば、昭和六二年二月二五日付けで被相続人名義の当座預金口座(D)に「フリカエテガタカシツケ」として三九六〇万八二三一円及び三九万七二五二円が入金されていること、同月二六日付けで被相続人名義の普通預金口座(E)に「ゴユウシカンケイ」として一九八九万九九〇〇円が入金されていることが認められ、被相続人に対し、同月二五日付けでDから四〇〇〇万円及び四〇万円の貸付けが、Eから二〇〇〇万円の貸付けがそれぞれなされたことが認められる(入金額が若干少ないのは、利息が天引されているためと思料される。)ところ、右各貸付けは、被相続人の信用に基づき被相続人に対してなされたものというべきであるから、右各貸付けによって得た金員は被相続人のものというべきである。

そして、昭和六二年分の証券購入資金は、右各銀行からの借受金のほか被相続人名義の銀行口座の金員が充てられていることからすると、原告甲名義の証券口座に入金された昭和六二年分の証券購入資金は、すべて被相続人の所有するものと認められる。

したがって、この点に関する原告らの主張は、理由がない。

3  また、原告らは、H企画が原告甲の証券口座を利用して証券取引を行ったのであり、昭和六二年分の証券購入資金はH企画において返済している旨主張する。

(一) しかしながら、そもそもH企画が原告甲の証券口座を利用して原告甲名義で株式の取引をしなければならなかった合理的理由は認められず、この点に関する原告らの主張には疑義がある上、証拠(乙六の1、七ないし一〇)によれば、被相続人名義の当座預金口座(D)から原告甲名義のGの口座に入金された四三一八万二三〇〇円及び被相続人名義の普通預金口座(E)から原告甲名義のGの口座に入金された九二万一七〇〇円の金員でM株式二〇株が購入され、その後の売却(昭和六二年四月四日に一株、同月六日に九株、同年九月三〇日に一〇株を売却)により一二六一万五一〇〇円の利益を得ていること、被相続人名義の普通預金口座(E)から原告甲名義のFの口座に入金された二二〇七万八三〇〇円の金員によりM株式一〇株が購入され、その後の売却により四八五万五四五〇円の利益を得ていることが認められるところ、右株式の売買が、H企画が行ったものであれば、昭和六三年一月期のH企画の確定申告書添付の決算報告書に右売却益の計上がなされていなければならないが、右決算報告書(乙一〇)には売却益の計上はなされておらず(なお、右確定申告書には、代表者かつ経理責任者として原告甲の署名押印がある。)、H企画の昭和六三年一月期の総勘定元帳(乙二六)にも右M株式三〇株に関する記載はない。なお、原告ら提出のH企画の昭和六三年一月期の総勘定元帳(甲二三)には、右M株式三〇株を購入した旨の記載があるが、右総勘定元帳は、昭和六三年一月期に係る法人税調査の際、係官に提示された総勘定元帳(乙二六)と異なり、右法人税調査の後に作成されたものと認められるので、採用し難いものである。

(二) 次に、昭和六二年分の証券購入資金がH企画において返済されているか否かについて検討する。

(1) 証拠(甲二〇、二一、四〇)によれば、昭和六二年五月一八日付けのH企画発行の額面三九四四万円の小切手及び同月二一日付けのH企画発行の額面九六万円の小切手により、同年二月二六日付けで被相続人がDから手形貸付により借り受けた四〇〇〇万円(手形書換により、同年二月二六日付けのものが同年四月三〇日付けに変更されたと推認される。)が返済されていることが認められる。

他方、証拠(乙四三ないし四五)によれば、右額面三九四四万円の小切手は、当初、被相続人がDから証書貸付により借り受けた債務の返済に充てられたが、それが取り消されて右手形借入金の返済に充てられていたことが認められ、これによれば、H企画は、右額面三九四四円の小切手を被相続人がDから証書貸付により借り受けた金員三九四四万円(一八四四万円と二一〇〇万円の合計)の返済に充てるために発行し、右小切手は右証書貸付の返済に充てられたが、それが取り消されて右手形借入金四〇〇〇万円の返済に充てられ、その結果、手形借入金が五六万円残ったため、右残金及び他の手形借入金四〇万円の返済に充てるため、さらに額面九六万円の小切手が追加発行されたものと推認することができる。

そうすると、H企画発行の額面三九四四万円の小切手及び額面九六万円の小切手は、昭和六二年分の証券購入資金の原資となった手形借受金の返済に充てられているものの、当初から手形借受金の返済のために発行されたものとはいえず、結局、右返済の事実をもって、昭和六二年分の証券購入資金の借受人がH企画であると認めることはできない。

(2) また、被相続人がEから借り入れた二〇〇〇万円については、返済のために発行されたとされるH企画発行の小切手の耳が提出されている(甲二一)ものの、右小切手が二〇〇〇万円の返済の趣旨で発行されたものと認めるに足りる証拠はない。

(3) その余の借入金についても、原告甲作成のメモ書き(甲一九)には、現金で返済した旨の記載があるものの、例えば、右メモ書きには昭和六二年三月九日の株式売却代金で返済した旨の記載があるが、原告らの主張によれば、右株式売却代金は前記争点3の昭和六一年分の証券購入資金の返済に充てたとされているのであって、右メモ書きの信用性は著しく低いといわざるを得ず、他に右返済の事実を裏付ける証拠はなく、原告ら主張の返済の事実を認めることはできない。

(四) 以上によれば、昭和六二年分の証券購入資金による証券取引がH企画においてなされたものとは認められず、昭和六二年分の証券購入資金のうち手形借入金四〇〇〇万円については、結果的にH企画の資金において返済がなされているものの、その余の借入金についてはH企画がこれを返済した事実を認めることはできない。

4  右に検討したとおり、昭和六二年分の証券購入資金は、原告甲の証券購入資金に充てられているものと認められ、昭和六二年五月二七日に原告甲名義のGの口座から一〇〇〇万円出金されて翌二八日に被相続人名義のEの口座に同額が入金されていることが認められる(乙六の1、八)ものの、右金員以外に原告甲が被相続人に金員を返還した事実は認められないことからすると、原告甲の証券口座に入金された昭和六二年分の証券購入資金八一六〇万円のうち一〇〇〇万円を除く七一六〇万円は、被相続人から原告甲に贈与されたものと認めるのが相当である。

六  争点5について

原告らは、被相続人名義のK及びEの各普通預金口座に振り込まれた原告甲及び原告丁の給与相当分は、被相続人の土地等に形を変えて残っているので、総体の課税財産から控除されるべきである旨主張する。

しかしながら、原告甲及び原告丁の給与相当分が具体的にどの財産に形を変えているかについて特定することができないのであるから、法律的には原告甲及び原告丁は被相続人に対してそれぞれ給与相当分の返還請求権を有しているものといわざるを得ない。

そうすると、原告甲及び原告丁の給与相当分の返還債務は、遺産分割協議書七項に基づき、原告丙が引き継ぐことになるところ、相続税法一三条一項により、原告丙の純資産価額は既に〇円であるから、右返還債務が存在するとしても、原告丙及び他の原告らの相続税額に影響はないこととなる。

なお、原告らは、遺産分割協議書における債務は、債務超過であることを認識しながら課税財産から控除しなくてもよい旨を明確にしたものでない限り、当然に課税財産から控除すべきである旨主張するが、主張自体失当である。

七  争点6について

原告らは、本件敷金債務は、被相続人のLに対する返還債務であるから、課税財産から控除されるべきである旨主張する。

しかしながら、右六と同様、右返還債務が被相続人に帰属するものであるとしても、右返還債務は、遺産分割協議書七項に基づき、原告丙が引き継ぐことになるところ、相続税法一三条一項により、原告丙の純資産価額は既に〇円であるから、右返還債務が存在することによって原告丙及び他の原告らの相続税額に影響を与えることはない。

八  争点7について

1  Aの出資(二一〇口)の仮装・隠ぺいについて

(一) 前記二(争点1)で認定したとおり、被相続人は、本件相続開始時において、Aの出資二一〇口を有しており、本件相続によって原告甲が右出資を取得したものと認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告甲は、右出資二一〇口を相続財産に含めず、昭和六三年四月三〇日、本件相続に係る相続税の申告書を被告に提出し、右相続税を過少に申告をしていることが認められる。

(二) そこで、右過少申告(出資二一〇口に関して)が仮装・隠ぺいに基づくものであるかどうかについて検討するに、証拠(乙一ないし三、二九の4、原告甲)及び弁論の全趣旨によれば、Aの昭和六二年三月期の法人税の確定申告書の「Ⅱ 同族会社の判定に関する明細書」欄には、被相続人がAの出資金二一万円を有している旨記載されているが、被相続人が死亡した後の昭和六三年三月期のAの法人税の確定申告書の「Ⅱ 同族会社の判定に関する明細書」欄には、己がAの出資金二一万円を有している旨記載されていること、己はAの出資者となったことはないこと、Aの昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期の各確定申告書を提出した当時、原告甲はAの代表理事の地位にあり、右各確定申告書の代表者欄には原告甲の署名押印があること、原告甲は、己がAの出資者でないことを承知の上で、昭和六三年三月期の確定申告書に同人が出資金二一万円を有している旨の記載をしたこと、右確定申告書は、昭和六三年五月三一日、被告に提出されていることが認められる。

被告は、昭和六三年三月期の確定申告書において、原告甲は、Aの出資二一〇口が本件相続により取得した財産であるにもかかわらず、己に譲渡されたかのように仮装し、これを相続財産に含めずに相続税申告書を提出した旨主張する。

しかしながら、右認定のとおり、昭和六三年三月期の確定申告書は、本件相続に係る相続税の申告書が提出された同年四月三〇日の後に提出されたものであるところ、右相続税の申告書が提出された時期までに右確定申告書が作成されていたかどうかは明らかでなく、他に、原告甲が、右相続税の申告の時点において、Aの出資二一〇口について仮装・隠ぺいしていたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、右相続税の申告書が、仮装・隠ぺいしたところに基づき提出されたものと認めることはできない。

2  本件M株式の仮装・隠ぺいについて

(一) 被相続人は、昭和六二年二月七日にI及びJからそれぞれ二〇株のM株式を取得し、本件相続により原告甲が本件M株式を相続したことについては、当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、原告甲は、本件M株式を相続財産に含めず、昭和六三年四月三〇日、本件相続に係る相続税の申告書を被告に提出し、右相続税を過少に申告をしていることが認められる。

(二) そこで、右過少申告(本件M株式に関して)が仮装・隠ぺいに基づくものであるかどうかについて検討するに、証拠(乙一〇、一一、二二ないし二四、原告甲)及び弁論の全趣旨によれば、本件M株式の売却につき、平成元年五月九日に被告が行った本件各更正処分に係る調査において提示されたIの昭和六二年七月期の有価証券勘定及びJの昭和六二年一一月期の有価証券勘定の各貸方欄には、それぞれM株式二四二〇万円(二〇株)を売却した旨の記載があるが、そこに記載されている「H企画」の文字は、「庚(氏名)」の「(名)」の文字が抹消されて「企画」と書き改められたものであること(乙二二、二四)、平成三年一月二九日に被告が行った本件各更正処分に対する異議申立てに係る調査において提示されたIの昭和六二年七月期の有価証券勘定の貸方欄には、「H企画」の部分が更に「J」と書き改められていること(乙二三)、右改ざんは、原告甲が命じ、あるいは自ら書き直したものであること、H企画は、昭和六三年三月三一日、被告に提出した昭和六三年一月期の法人税の確定申告書添付の「有価証券の内訳書」に昭和六二年一〇月二〇日にM株式を五〇株(一億二七五〇万円)を取得した旨記載していたこと(乙一〇)、H企画は、その後の法人税調査においてH企画がM株式を取得した事実がない点の指摘を受けると、右有価証券一億二七五〇万円を資産から減算した修正申告書を提出していること(乙一一)、原告甲は、I及びJの各取締役、H企画の代表取締役であったことが認められる。

被告は、Iの昭和六二年七月期の有価証券勘定及びJの昭和六二年一一月期の有価証券勘定の各貸方欄のM株式二四二〇万円(二〇株)の欄に記載されている「庚(名)」の文字が「企画」に書き改められていることなどをもって、仮装・隠ぺい行為である旨主張する。

しかしながら、原告甲は、被相続人の死亡後半年から一年経過した後税務署の調査が入り、その後「庚(名)」の文字を「企画」に書き改めた旨供述しており、右供述を否定する証拠がないことからすると、Iの昭和六二年七月期の有価証券勘定及びJの昭和六二年一一月期の有価証券勘定が右のとおり改ざんされた時期は、本件相続に係る相続税の申告後であると推認され、右相続税の申告の時点において、本件M株式について仮装・隠ぺいしていたものとはいい難く、他に仮装・隠ぺい行為に該当する事実も認められず、結局、本件相続に係る相続税の申告が、仮装・隠ぺいしたところに基づいて提出されたものと認めることはできない。

3  以上のとおり、原告甲がAの出資金(評価額二二〇四万〇七六〇円)及び本件M株式(評価額一億〇二三六万円)を仮装・隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき本件相続に係る相続税の納税申告書を提出したとは認められないから、原告甲に対する本件重加算税賦課決定処分は違法というほかない。

なお、過少に申告したことについて「正当な理由」は認められないから、過少申告加算税相当分を超える限度において取り消されるべきである。

九  争点8について

前記二ないし七及び後記第四1のとおり、本件再更正処分及び本件各更正処分はいずれも適法であると認められ、また、原告らの申告した本件相続に係る相続税の課税価格及び相続税額が過少であったこと(ただし、前記八で本件重加算税賦課決定処分の対象とされる財産を除く。)について、国税通則法六五条四項の「正当な理由」があるとは認められない。

第四結論

1  本件再更正処分及び本件各更正処分の適否

前記第三の二ないし七のとおり、原告らの主張はいずれも理由がない。したがって、原告らの納付すべき相続税の金額は、原告甲が四〇八一万三七〇〇円、原告乙が五〇四万円、原告丙が二一七万七五〇〇円、原告丁が五〇四万円となり(計算詳細は別表二ないし四のとおり)、右各金額は、本件再更正処分ないし本件各更正処分の原告らの相続税の金額を上回るから、本件再更正処分ないし本件各更正処分はいずれも適法というべきである。

2  本件重加算税賦課決定処分の適否

前記第三の八のとおり、本件重加算税賦課決定処分は違法であり、過少申告加算税相当分を超える部分について取消しを免れない。

なお、過少申告加算税相当分は、原告甲が納付すべき過少申告加算税六〇六万八〇〇〇円(計算詳細は別表八のとおり)から、次項の財産に関する過少申告加算税額一八〇万五〇〇〇円を控除した額(これは、本件で重加算税の対象となる税額とされた二八四二万円について過少申告加算一〇パーセント及び五パーセントをそれぞれ乗じたものを合算した額と同じである。)と見るのが相当であるから、四二六万三〇〇〇円が過少申告加算税相当分と認められる。

3  本件各過少申告加算税賦課決定処分の適否

原告らの納付すべき過少申告加算税の金額は、原告甲が一八〇万五〇〇〇円(ただし、右2の重加算税賦課決定処分の対象とされる財産を除く。)、原告乙が四四万八〇〇〇円、原告丙が六万四〇〇〇円、原告丁が四四万八〇〇〇円となり(計算詳細は別表五のとおり)、本件各過少申告加算税賦課決定処分の金額をいずれも上回るから、本件各過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法と認められる。

4  以上の次第で、原告丙の本件更正処分の取消しを求める訴えのうち、申告納税額一五三万六八〇〇円を超えない部分の取消しを求める部分は不適法であるから却下し、原告甲の本件重加算税賦課決定処分の取消しを求める請求のうち過少申告加算税相当分四二六万三〇〇〇円を超える部分については理由があるから取り消し、その余の原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 羽田弘 裁判官 小川浩 裁判官 中尾佳久)

別表一の1

本件課税処分の経緯(原告・甲)

<省略>

別表一の2

本件課税処分の経緯(原告・乙)

<省略>

別表一の3

本件課税処分の経緯(原告・丙)

<省略>

別表一の4

本件課税処分の経緯(原告・丁)

<省略>

別表二

課税価格及び相続税額の計算表

<省略>

別表三

相続税の総額の計算表及び各人の算出税額の計算表

1 課税遺産総額の計算(金額単位:円)

(課税価格合計) (遺産に係る基礎控除額)

(別表二・5の合計) (法定相続人数) (<1> 課税遺産総額)

405,289,000-(20,000,000+4,000,000×5)=365,289,000

2 相続税の総額の計算表

<省略>

3 各人(原告ら、財産を取得した者)の算出税額の計算表

<省略>

別表四

配偶者の税額軽減額の計算表

<省略>

別表五

重加算税及び過少申告加算税の計算表

<省略>

別表六

隠ぺい又は仮装の課税価格がなかった場合の相続税の総額の計算表及び各人の算出税額の計算表

1 隠ぺい又は仮装の課税価格がなかった場合の課税遺産総額の計算(金額単位:円)

(課税価格合計) (遺産に係る基礎控除額)

(別表五・10の合計) (法定相続人数) (<1> 課税遺産総額)

280,892,000-(20,000,000+4,000,000×5)=240,892,000

2 隠ぺい又は仮装の課税価格がなかった場合の相続税の総額の計算表

<省略>

3 隠ぺい又は仮装の課税価格がなかった場合の甲の算出税額の計算表

<省略>

別表七

隠ぺい又は仮装の課税価格がなかった場合の配偶者の税額軽減の計算表(金額単位:円)

<省略>

別表八

過少申告加算税の計算表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例